京都市内から北へおよそ100キロ。丹後半島の先端にある与謝郡伊根町。三方を山に囲まれた伊根湾は、外海との出入り口に浮かぶ青島が天然の防波堤の役割を果たし、古くから絶好の漁場とされてきました。
周囲およそ5キロの伊根湾には「舟屋」と呼ばれる伝統家屋が建ち並んでいます。この景観から「奇跡の村」とも呼ばれる伊根町ですが、その背後には舟屋の文化を守るべく、力を尽くす人たちの姿がありました。
江戸中期頃にはすでに存在したといわれる舟屋は、海に面した1階部分が漁船のガレージ、2階部分が物置や居住空間になっています。まさに海に近い人の生活があるまち。「日本一、いや世界一では」と、伊根町の吉本町長も胸を張ります。
一年中穏やかで潮の干満差も少ない伊根湾の特徴を活かして、現在も約230軒もの舟屋が建ち並ぶ景観は、「伊根浦舟屋群」として国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。伊根浦舟屋群等保存会の永浜会長に伺うと、舟屋の数自体は昔からほとんど変わっていないそうですが、その姿は時代によって変遷。現在の2階建ての舟屋は昭和20年代から30年代に登場したといいます。
しかし、この穏やかな漁師まちにも少子高齢化の波が押し寄せ、後継者不足に悩まされるようになりました。伊根浦舟屋群等保存会の八木副会長は、舟屋の中にあるはずの漁船が減っていると感じるそうです。家の前に漁船があり、漁師の生活が見えるのが舟屋の魅力。地元に漁師のなり手がないのであれば、外から受け入れることも必要だと、漁業に携わる橋本さんは危機感を持って話します。漁師志望者の受け入れ態勢づくりが、現在の伊根町の課題です。そしてそれは、若者向けの独身寮や住居の用意など少しずつ進んでいるそうです。東京など他地域から移住してくる人も現れました。
海と寄り添いながらの生活を今後も続けていきたいと話す橋本さん。そのためには漁民の暮らしの糧であるクリーンで豊かな海を守っていかなければならないと、吉本町長は力を込めます。最近は地球温暖化の影響か水面が数十センチ上昇し、建物の基礎を持ち上げている舟屋も多いのだといいます。
伊根町の人々のお話からは、このまちと文化を育んでくれた海への愛情が滲みます。海とともに暮らしてきた奇跡の村。その海の美しさと舟屋の景観は、まちの人々の努力によって守られているのです。
この内容は、9月20日(水)にKBS京都「おやかまっさん」(10:30~11:55)で放送されました。
後日YouTubeにもアップ予定ですのでお楽しみに!