天橋立は両側が阿蘇海と宮津湾という海に囲まれ、白い砂と松並木が約3.6㎞続く絶景で、5000本に及ぶ松が生育しています。天橋立を眺めていると、これらの松は海岸線ぎりぎりに立っていて、まるで海水を吸い上げ育っているのではないかと思えてきます。
元々「松」は塩分に強く、少ない水分でも育つ植物で、海岸の「防砂林」のほとんどは「松」が使われているのですが、これだけの数の松が立派に生育しているのには何か理由があるのかと考えてしまいます。
こんな疑問の解決の一つとなるのが今回紹介する「磯清水」です。
天橋立の中にある井戸「磯清水」は4面が海に囲まれながら塩分を含んでいない真水が湧き出すという不思議な井戸として有名で、環境省の「名水百選」にも選定されています。古来より「長寿の霊泉」として崇められていて、平安時代の歌人・和泉式部が「橋立の松の下なる磯清水 都なりせば君も汲ままし」と詠ったともいわれています。
この井戸に塩分のない真水が湧くということから天橋立の砂洲の地表下60~120メートル以下には地下水が通っていて、それらの地下水が天橋立の松並木を育てているのだといわれています。
この井戸からは今でも水が出ているので、真水かどうかを確かめるのはいいのですが、飲用としては不可のようですのでご注意を。
井戸のすぐ横には天橋立神社があり、恋愛成就のパワースポットとして知られています。井戸はお参りの際の手水として利用されています。
この地下水は、海水に挟まれた砂州内では真水の地下水がレンズ状に存在するという「ガイベン・ヘルツベルクのレンズ」という現象で説明できるのだそうです。周りを海で囲まれた砂の島では、地下に海水が浸み込んできます。しかし、雨水がたまると、レンズ状の淡水塊が形成されます。淡水は海水よりも軽いため簡単には混ざらないということです。雨水による帯水層のおかげで、天橋立に見事な松並木があるということなのでしょう。